中国経済が世界一になる時、中国語は国際共通語になるのか?

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世界の共通言語の歴史と中国語の行方

現在世界で最も幅広く使われている言語は、間違いなく英語です。

母国語人口こそ、中国語やヒンディー語より少ないですが、外国語としての利用を含めれば、より多くの人、より多くの場所で使われています。

英語は15億人以上に話され(SGI)、54か国で公用語として使われています(文部科学省)。世界中の多くの国の「第一外国語」は英語です。

代表的な英語の国のイギリスとアメリカは、20世紀以降、覇権国家として世界で圧倒的な存在感がありました。現在でもアメリカの経済規模は世界最大ですし、イギリス、カナダ、オーストラリアなど「英語圏」として考えると、中国、日本や、ドイツなど他の言語の国と比べて圧倒的に経済規模が大きく、政治的な影響力も強いです。

しかし、少なくとも経済について言えば、状況は変わりつつあります。OECDの長期GDP予測によれば、中国のGDPは2021年にアメリカを追い越します。他の国際機関や企業が出している予測を見ても、近いうちに中国がアメリカに代わって世界一の経済大国になることは、ほとんど疑いの余地がありません。

それでは、中国が世界一の経済大国になる時、中国語は英語に変わって世界中で使われる言語になるのでしょうか?

現在の社会人、学生は英語でなくて中国語を学ぶべきなのでしょうか?私たちの子供の世代はどうでしょうか?

議論の背景として、私の経歴を説明します。私は、日本生まれ、日本育ちですが、24-30歳まで台湾の大企業で現地採用として働いていました。社内言語は、ほぼ100%中国語でした。商品企画や、事業企画などもしていたので、中国語力は高いレベルだったと言えます。その後、英語でMBAを取って、現在は日本語と英語で仕事をしています。

世の中の「国際派」の方々の多くは、英語と日本語しか話しません。私は長く中国語で仕事をしていたので、世間一般の国際派よりは、かなり中国、中国語びいきです。中国語学習を薦める意見寄りにバイアスがかかっている点は否めません。その点を踏まえて、読んで頂ければと思います。

国際共通語(リンガ・フランカ)の歴史

中国語の将来を考える前に、国際間のコミュニケーションで使われる言語が、どのように変遷してきたかを見てみましょう。

母国語の異なる人の間で使われる言語を、国際共通語、もしくはリンガ・フランカと呼びます。

英語は、ずっと国際共通語だったわけではありません。17世紀から19世紀まで、ヨーロッパではフランス語が国際共通語として使われていました。英語が国際共通語としての地位を確立したのは、20世紀に入ってからです。

フランス語が国際共通語となった背景は、「英国においてはノルマン・コンクエストにより支配者階級がフランス語の話者であった事、イタリアやドイツは国内統一、ひいては言語の統一がフランスよりも遅れていたため、フランス語の地位が高まったため」です(Wikipedia)。

フランス語の前は、ラテン語がヨーロッパでの国際共通語として使われていました。現在でも欧米人は、教養としてラテン語を勉強する人がいます。

ラテン語が英語やフランス語と大きく異なる点は、母国語として日常的に使われなくなってからも、国際共通語として使用され続けていたことです。

ラテン語は、元々はローマ帝国の公用語として使用されていました。しかし、西ローマ帝国が滅亡してからは、ラテン語は各地で変容し、フランス語、イタリア語、スペイン語のようなロマンス諸語になっていきます。しかし、民衆の言語がロマンス諸語に変容してからも、カトリック教会の公用語および学術・外交用語として用いられ続けました(Wikipedia)。

今の英語の状況を見ると、国際共通語は最も国際的な影響力が大きい国「覇権国家」の言語が選ばれるように思えます。

しかし、ラテン語は、どこの国にも属さない言語になってからも、共通語としては長い間使われていました。ラテン語のケースを考えると、国際共通語は、必ずしも覇権国家の言語ではなくてよいことが分かります。

国際共通語の選ばれ方

国際共通語は、違う言語の人が話すときに使用される共通語です。万が一、アメリカやイギリスの国際的な地位が極端に低下したとしても、外国人にとって英語が最も便利なのであれば、英語は引き続き国際共通語として使われるはずです。

現在でも、英語の非ネイティブ同士で使われています。例えば、日本人とフランス人が話すときに、多くの場合は英語が選ばれます。共通の言語が英語しかないからです。アメリカやイギリスとは関係なく、英語が最も便利だから、日本人とフランス人は英語で話すのです。

それでは、国際共通語としての言語の利便性は、どのように決まるのでしょうか?

英語が現在国際共通語として使われているのは、外国人同士が話すときに、コミュニケーションが成立する可能性が最も高いからです。英語圏の国でなくても、どこの国でも英語を話せる人は一定数います。

日本人も英語が苦手と言いつつも、基礎的な単語は大部分の人が理解できます。私は旅行で60か国以上に行きましたが、本当に全然英語が通じない場所は、ほとんどありませんでした。

中国語は、母国語の人数は英語より多いですが、話されているのは、中国、台湾、シンガポールくらいです。もちろん中国人は、アメリカにも、日本にも多くいますが、中国語の非ネイティブの人が中国語を話せるケースは、英語に比べると桁違いに低いです。中国語は、基本的にネイティブ同士のコミュニケーションに使われる言語です。

スペイン語も母国語話者数は多いし、公用語としている国も多いですが、スペイン語圏の外だと、話せる人は少なくなります。中国語と同じように、スペイン語もネイティブ同士で使う言語です。

英語が世界中で使われている理由

非ネイティブでも英語を使える人が多いのは、英語が最も学ぶ人が多い外国語だからです。学ぶ人が多い理由は、英語が国際共通語だからです。

国際共通語だから英語が学ばれて、英語話者が多いから国際共通語として選ばれる、正の循環になっています。

ラテン語が国際共通語だったのも同じ理由です。一度国際共通語になってしまうと、外交や学問でラテン語が必須なので、エリートはラテン語を学ばなければならない。エリートが皆ラテン語を知っているから、外交や学問は必然的にラテン語で行われる。

このように使用者数が多いことによって、ますます使用者数が増える効果をネットワーク効果と呼びます。

例えば、ソーシャルネットワークは、ネットワーク効果が働いている典型例です。LINEやFacebook を使うのは、知り合いで使っている人が多いからです。どんなにサービスが素晴らしくても、コミュニケーションを取る相手いないソーシャルネットワークは、誰も使いません。

LINEとFacebookでは、日本国内では、どちらもネットワーク効果が働いていますが、国際的な広がりでは異なります。

LINEのネットワーク効果は、日本や一部の国に限定されています。LINEは、あくまでも国内でのコミュニケーションで使うツールです。一方で、Facebookは、国内だけでなく、国際間のコミュニケーションでも使われています。

中国語が国際共通語でない理由

中国語は、LINEのように国内では誰もが使うコミュニケーションツールです。しかし、国際的な広がりは限定的です。日本(と一部の国)でしか使えないLINEをインストールする外国人が少ないのと同様に、中国人としか使えない中国語を必死で覚えようとする人は少ないです。

中国語が国際共通語として使われるのは、英語のように世界のどこでも使う人がいる言語になる必要があります。そのためには、英語のように、世界中で外国人が中国語を学ぶ必要があります。

しかし、それは鶏と卵の関係で、使う人が多くないと、学ぶ人も増えませんし、学ぶ人が増えないと使う人も増えません。逆に、一度増え始めると、正の循環で学ぶ人も使う人も増えていきます。

中国語を学ぶ人は増えていく

それでは、中国語は使う人、学ぶ人が増えていくのでしょうか?私は、可能性は高いと思います。

外国語を学ぶ動機は、主に経済的なものと文化的なものがあります。英語は、どちらの動機も高いです。アメリカを始め、英語圏の経済規模は他の言語圏を圧倒していますし、映画や音楽などで英語コンテンツの影響力もずば抜けています。

経済的な面では、中国は既に世界二位の経済大国で、アジアでは一位です。中国とアジア2位の日本の差は、拡大する一方です。冒頭で説明したように、2020年代初めには、中国はアメリカを抜いて世界最大の経済大国になると予測されています。

中国の経済規模の拡大に伴い、実際に中国語を学ぶ人が増えています。中国語のテスト「HSK」の日本での受験者数は、2005年から2015年で5倍以上に増えています(HSK)。

韓国でも中国語を習う人が増えています。学習者の総数は日本語の方が多いですが、「優秀な学生ほど、難しい中国語にチャレンジする」、「将来性を考えれば、日本語よりも中国語を学習するべきだ」といった雰囲気があります(国際交流基金)。

欧米でも中国語熱は高まっています。著名投資家のジムロジャースは、2007年にシンガポールに移住した理由の一つとして、娘に中国語を学ばせるためと語っています。アメリカの大学では、1998年から2013年までに、中国語の履修者数が倍以上になっています(NAFSA)。

今後は、経済的な要因だけでなく、文化的な要因でも中国語を学ぶ人は増えてくると予測します。経済的に豊かになれば、エンタメなど文化的なコンテンツ産業も強くなるからです。日本では中国のエンタメは無視されていますが、既にアジアでは影響力があり、どんどん規模感が大きくなっています。

中国語は英語に勝てない

しかし、アジアでさえも、第一外国語としての英語の地位を奪うのは難しいと思います。

なぜなら、現在のところ、英語の利用価値は中国語よりも圧倒的に高いからです。中国の影響力が大きくなっても、英語の利用価値が中国語を上回っている限りは、より多い人が英語を学びます。そして、英語を学ぶ人が多いから、将来も英語の方が広く使われていることが予想されます。

つまり、英語が持っている強力なネットワーク効果(利用者が多いから、学習者も多い、正の循環)は、中国の影響力が高まっても、崩れるようには思いません。

更に、中国人も英語を熱心に学んでいることが、英語の地位が将来も安泰な要因です。中国人とビジネスをする場合にも英語で済んでしまうからです。

英語しか話せない日本人と、中国語しか話せない日本人がいた場合、大きなビジネスになるほど前者の方が価値が高いです。なぜなら、中国語が話せない人がいる場合、必然的に英語が使われるからです。担当者同士では、中国語で話していたとしても、多くの人数が絡む場になれば、英語を使うしかなくなります。

今から中国語を勉強しようと思ってる人に取って、重要なのはせいぜい20年-30後ぐらいまでの未来です。50年後とかだと、ほとんどの人は引退しているので、本人にとっては予測する意味がないからです。

20-30年後の世界で、中国語が英語よりも使われる言語になる可能性は限りなくゼロに近いです。アジア内に限定しても、ほぼゼロだと思います。

なぜなら、現在のアジアの20代で中国語ができる外国人は、英語に比べると文字通り桁違いに少ないからです。20-30年後、今の20代は40-50代になり、ビジネスで最も影響力のある世代になります。偉い人が英語しか話せないのに、会議や公式文書のやりとりが中国語で行われることはあり得ません。担当者レベルの個別のやりとりで中国語が使われることは増えるかもしれませんが、英語が必要なくなることは考えられません。

アジアだけでなく、世界全体で見ると、中国語が英語より使われる可能性は更に低くなります。欧米で中国語を学んでいる人は、アジアよりも更に少ないからです。また、欧米人にとっては、英語は比較的簡単ですが、中国語をマスターするのは非常に難しいです。

よって、現役世代、学生にとって意味のある時間軸においては、中国語が世界共通語になる可能性は、限りなくゼロに近いです。

中国語を学ぶ価値はあるか?

何十年たっても英語の方が重要なら、中国語を学ぶことは経済的に意味がないのでしょうか?

そうとも言えません。中国人とのビジネス、中国の会社相手のビジネスは、これからますます増えるからです。

更に、これまでは中国は生産拠点としての位置付けが強かったですが、これからは日本の隣にある世界最大の市場として、お客様として圧倒的に重要になります。お客様に気に入って頂くには、お客様の言語や文化を知るのは重要です。

自分が逆の立場で、海外から営業が来た時に、日本語が話せて、日本の事情通だったら、嬉しくないでしょうか?私は、率直に嬉しいし、公平に判断しようと努力しても、ひいき目になるのは仕方ないと思います。コミュニケーションのしやすさもありますが、それ以上に、日本を理解する、日本の市場にコミットする姿勢を感じるからです。中国でも、片言でも中国語を話すと、大変喜ばれることが多いです。

大人数が絡むコミュニケーションでは英語が使われるでしょうが、担当者同士の会話では中国語は非常に有効です。また、中国の市場を理解するためにも、現地の普通の人の言語を理解できる価値は高いです。

100年後の世界では?

現在の我々は死んでいるか引退していると思いますが、50年後や100年後はどうなっているでしょうか?

数世代が入れ替わると、中国語がアジアの国際共通語になる可能性は少しはあると思います。

もう20年も経つと、中国のアジアでの影響力は、アメリカを大きく上回ると思います。そうなった場合に、中国語は、英語に加えて、ほぼ必須の言語になる可能性があります。国によっては、英語よりも優先されるかもしれません。

例えば、2030年に生まれた世代が2040年代に教育を受けるときには、ほとんどの人が中国語を習うかもしれません。そうなれば、彼らが50歳になる2080年には、ほとんどのアジアの現役世代の社会人が中国語を話します。メンバーによっては、英語よりも中国語が好まれるかもしれません。

しかし、100年経っても、中国語が英語よりも重要な国際共通語になる可能性は、限りなく低いと思います。

中国に抜かれはしますが、アメリカは50年後も変わらず経済大国のはずです。アメリカ、中国と並ぶ経済大国になると予想されているインドも英語も公用語としています。イギリス、カナダ、オーストリア、シンガポールなど他の英語圏の国もあります。

アジア以外で考えれば、英語圏全体の影響力は、中国よりも高いはずです。欧米でも中国語を学ぶ人は増えると思いますが、英語の地位を脅かすとは思えません。欧米とのコミュニケーションでは英語が必要なので、中国人も英語は学び続けるはずです。

世界全体で見た場合は、英語が最も広く使われる状況は変わらないので、国際共通語は英語のままです。

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